私たちは日常生活で「考える」ことを無意識に行っていますが、実際には何をしているのでしょうか?考えることを一言で説明するのは簡単ではありません。
細谷功氏が著した『具体と抽象トレーニング』では、「考える」とは具体的な事象と抽象的な概念の間を行き来することであり、このプロセスが私たちの思考を深め、広げる力の源泉であるとされています。
この名著である細谷氏の本から多くの人ができている気でいる「考える」という概念について、改めて立ち止まって「考えて」みましょう。
具体と抽象の定義
では、考えるという概念に不可欠である「具体」と「抽象」という概念がそれぞれどういった定義なのかを見ていきましょう。
「具体」とは、特定の状況、出来事、または物理的な実体を指します。これらは目に見えるものであり、感覚を通じて直接経験できるものです。
例えば、「リンゴを食べる」という行動は具体的なものです。私たちはその味、香り、食感を感じることができるからです。
一方、「抽象」は、具体的な経験から共通点を見出し、それをもとに一般的な概念や法則を導き出すことです。
例えば、「果物を食べる」という行為は、「食物を摂取する」という抽象的な行動の一部であり、それをさらに「生きるためにエネルギーを摂取する」というより抽象的な概念に結びつけることができます。
具体と抽象の往復運動の重要性
考えることの本質は、具体的な事例を抽象化し、その抽象的な概念を再び具体的な場面に応用することにあります。
この具体と抽象の往復運動は、思考を深め、より複雑な問題解決に導くための鍵となります。
例えば、ビジネスの世界で新しい戦略を考える際、まずは具体的な市場データや顧客の声を収集します。
これを分析し、そこから抽象的なビジネスモデルや戦略を構築します。その後、この抽象的な戦略を具体的な行動計画に落とし込み、実行に移すというプロセスを経ます。
この往復によって、より的確で効果的な戦略が生まれるのです。
思考を鍛えるためのトレーニング
では、具体と抽象を行き来することをどうやったら習慣化できるでしょうか。往復運動を鍛えるための具体的な方法は以下のとおりです。
1. 具体的な事象から抽象的な概念を導き出す
日常的な出来事や経験から、共通するパターンや原則を見出し、それを抽象化する練習を行います。
例えば、日々の仕事の中で共通している課題や問題点を抽出し、それを改善するための一般的なルールを考えます。
2. 抽象的な概念を具体的な事例に落とし込む
抽象的な理論やアイデアを現実の場面に適用し、その有効性を検証します。
例えば、「効率化」という抽象的な目標を設定した場合、それを具体的にどのような行動やプロセスで達成するかを考え、実践します。
3. フィードバックを取り入れる
抽象的な考えや理論が実際にどのように機能するかを観察し、結果に基づいて再び考えを修正する。このフィードバックループは、思考の精度を高め、実践的な解決策を生み出す力を養います。
具体と抽象を使いこなすことの価値
具体と抽象の往復運動を意識することで、私たちは単なる情報の受け取り手から、情報を分析し、意味を見出し、それを基に行動できる「考える力」を持つ人間へと成長することができます。この考える力は、ビジネスに限らず、人生全般において価値を持つスキルです。
『具体と抽象トレーニング』は、このような思考の鍛錬を通じて、個人の成長を促すための具体的な手法を提供しています。日々の思考プロセスに具体と抽象の視点を取り入れることで、私たちはより深い理解を得て、複雑な問題にも適切に対処できるようになるでしょう。
終わりに
「考える」とは、単に物事を思いつくだけではなく、具体と抽象の間を行き来しながら、現実の複雑さを整理し、解決策を見出すプロセスです。この往復運動を意識し、トレーニングすることで、私たちはより深い洞察と実践的な知恵を得ることができます。『具体と抽象トレーニング』を参考に、考える力を磨いていきましょう。
参考著書