2016年、7月。ソフトバンクの孫正義社長が英半導体企業ARMを3.3兆円という巨額の資金を投じて買収するという驚くべきニュースがありました。あれから2年が経過しようとしてますが、改めて、孫社長はなぜARMというあまり実態が掴めない企業に3.3兆円という値段をつけたのか。その背景を調べてみました。
世界で1兆回線を実現するために
孫社長は2017年の法人向けに行ったイベントにおいて、将来のビジョン、そしてARM買収の目的を述べています。
今後、全てのIoTにARMの半導体が使われる。我々は、全世界どこにいても全ての人がインターネットに接続できる世界を実現したい。そのために、人とものが繋がるIoTのインフラを築く必要がある。これが孫社長がARMを買収した理由です。
この「全世界どこにいても全ての人がインターネットに接続できる世界」という壮大、かつ明確なビジョンがあり、かつそれに対し必ず実現するという強い意思が孫社長にあるからこそ、売上が当初1800億円ほどの企業を3.3兆円で買収するという決断ができたと言えるでしょう。
成長産業での圧倒的シェア
では、ARMが主力事業とする半導体市場はどのくらい大きいのか、そしてARMはどのくらいシェアを持ってるのかを調べてみました。
2017年11月に掲載された日経新聞の記事によると、2017年の世界半導体市場規模は前年の2016年に比べ、約20%増加の45兆円に上るとあります。その中でもCPUと言われる分野、特にスマートフォン向けCPUコア市場においてARMはなんと約95%のシェアを持っています。
そしてこのスマートフォン向けCPU市場は特に需要がある市場になっています。なぜなら、ネットフリックスなどの動画配信サービスが広く普及し、大量のデータ処理を必要とする半導体が必要になってきているからです。
ユニークなビジネスモデル
では、ARMとは具体的にどうやって稼いでいるのでしょうか。実はARMという会社、ビジネスモデルが非常にユニークな会社なのです。
まず、ソフトバンクが公表しているアーム事業の財務情報をみてみましょう。
売上高は買収後から増減はあるものの、順調に増えていることが伺えます。この売上をセグメント別にみると主に下記2つから収益を得ているとソフトバンクは発表しています。
多くの半導体企業のクライアントが半導体を取り入れるメーカーであるのに対して、アームは半導体企業に対し、技術をライセンス契約で貸し出すことによって収益をあげているのです。
つまり、競合他社に対して、技術を貸し出していることになります。普通に考えればあり得ないようなビジネスモデルをアームは採用しているのです。
なぜこのような常識はずれのビジネスモデルがうまくいくのかというと、ほとんどの市場シェアを持っていることによるメリットが大きいです。競合他社はCPUを新たに開発するよりもライセンスでCPUを作ってメーカーに売った方が最終的にコストが安く済むのです。
さらに、アームは研究開発費をライセンスからの利益のみで回収しているため、2つ目であるロイヤリティーでの売上が丸々利益となっている点にも驚きです。
このような背景から孫社長は大きな決断に至ったと言えると思います。