近年、マネジメント手法として1on1という概念が組織開発の領域でトレンドとなっていることをご存知でしょうか。
本記事では、1on1という概念は何か、1on1とマネジメントに活かすためにすべきことは何か、そして、1on1を機能させ、強い組織を作り出している企業についてご紹介していきたいと思います。本記事では主に以下の著書を参考にしているので、より詳しく1on1について知りたい方はぜひ合わせてチェックしてみてください。
<目次>
1on1とは?
1on1の目的
1on1のメリット
1on1が組織開発のトレンドになっている理由
1on1を機能させるために必要な3つのこと
ベースとなる信頼関係の構築
学びの深化
次の行動の決定
1on1で強い組織を作っている企業
グーグル
ヤフー
終わりに
1on1とは?
では、早速1on1とは何か?についてみてきましょう。
読んで字のごとく、1on1とは上司と部下が一対一でコミュニケーションを行うことを指します。
では、強い組織を作るための組織開発の文脈で、なぜ1on1が注目されているのでしょうか。
まず、1on1を行う目的についてお伝えします。
<1on1の目的>
1on1の目的は、様々あります。
部下のモチベーション向上であったり、内省の促しであったり、今感じている仕事での不安の解消であったり。
なので、組織によって目的が異なってくるのですが、今回は、『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』で記載されている目的をお伝えしようと思います。
上記の著書では、1on1の目的を「社員の経験学習を促すため」そして、「社員の才能と情熱を解き放つため」と定義しております。
【社員の経験学習を促す】
まず「社員の経験学習を促す」について詳しく見ていきましょう。
経験学習とは、文字通り、社員が仕事で経験したことから、学びを得ることを指します。
そして、この経験学習の理論で有名なのが、デイヴィット・コルブ氏の経験学習サイクルです。
上記の図のように、具体的経験、内省、教訓の言語化・概念化、次の経験に転用のサイクルを回すことで、人は学ぶというのがコルブ氏の理論です。
経験学習理論については、以下の記事でも詳しくご紹介しているので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
【社員の才能と情熱を解き放つ】
次に、「社員の才能と情熱を解き放つ」という目的について、詳しく見ていきましょう。
才能と情熱を切り分けて考えてみたいと思います。
才能を解き放つ上で重要なことがは、自己効力感を持って仕事ができている状態です。
自己効力感とは、自信を持って目の前の仕事の取り組めている状態を指します。
そして、この自己肯力感を担保するために必要なことが客観的なフィードバックになります。
またフィードバックもネガティブなものだけでなく、ポジティブなもの、つまり、褒めるであったり、成長を促すフィードバックをすることが重要です。
では、次に、情熱を解き放つ上で重要なことが、自分なりに腹落ちするWILLを言語化し、掲げるということです。
WILLとは、将来的のありたい姿や自分にとっての幸せな状態を指します。
このWILLを言語化し、解像度高く、イメージできていることが情熱を解き放つ上では重要になってくるでしょう。
<1on1のメリット>
では、組織で1on1を実施するで、どんな変化を期待できるでしょうか。個人的には2つポジティブな効果があると思います。
まず、一つ目が「自律的な人材育成」につながるという側面。そして、もう一つが「上司と部下の関係の質」が高まり、メンバーのパフォーマンスが高まるという側面です。
【自律的な人材育成】
1on1の目的の一つは「経験学習を促す」にあります。そして、自律した人材こそ、この「経験学習サイクル」を自分で勝手に回せる人材に他なりません。
最初は上司の助けがないと「経験学習サイクル」を回すことができないかもしれませんが、自ずと上司なしでも自力でサイクルを回せるようになります。
すると、部下は経験したことを自分で内省し、自分なりに学びを言語化し、そして学びを他に転用しながら勝手に成長していく。
つまり、1on1をきっかけに「経験学習」を部下の習慣にすることで、勝手に経験から自分で学び成長する自律人材を育成することにつながるのです。
【関係の質向上】
そして、もう一つのメリットは、成功循環モデルのグッドサイクルを回すための入り口である部下との「関係性の質」を高めることができるという点です。
成功循環モデルとは、MITの元教授であるダニエル・キム氏が提唱した組織が継続的に高いパフォーマンスを出すために必要なサイクルを定義したものです。
<出所>
ダニエルキムの組織の成功循環モデルとは?グッドサイクルの事例を解説 - Customer Success
上記の図のように、成功循環モデルのグッドサイクルとは、関係の質、思考の質、行動の質、そして結果の質というように順々に各要素の質をあげることで、次の要素の質向上につながっている状態です。
そして、ここで重要なのがサイクルを回す順番です。ありがちなのが、上司が部下にコミュニケーションを取る際に結果の質を最初に求めてしまうケース。
「なぜ成果が芳しくないのか?」「もっと成果をあげるにはどうしたらよいと思うか?」
このように結果の質をまず求めてしまうと、部下は詰められていると感じ、関係の質が下がり、思考の質が下がり、行動の質が下がり、挙句にはさらに結果の質が下がるという事態になってしまいます。
なので、まず部下に高いパフォーマンスを出してもらうには、関係の質からアプローチすることで、うまくグッドサイクルを回し続ける状態を構築することが重要なのです。
そして、関係の質をあげる手段としては、1on1が適切な場となるでしょう。
<1on1が組織開発のトレンドになっている理由>
しかし、なぜ最近、組織開発の文脈で1on1という概念がトレンドになっているのでしょうか。
これも2つの側面があると考えております。
まず一つ目がコロナによるリモートワークの浸透で、仕事におけるコミュニケーションの絶対量が減っているということ。そして、もう一つが、メンバーの内発的動機付けがパフォーマンス向上につながる、という認知が広がってきたこと。
【リモートワークでもコミュニケーション減】
コロナの影響で、多くの企業がリモートワークに切り替えました。
長い出勤時間や朝の満員電車に乗らなくて済むことで生産性があがったと言われる反面、職場でのコミュニケーションが減り、部下が何をしているのか分からないであったり、突然部下が離職してしまったという上司の方も多いのではないでしょうか。
オフィスに出社している時は、毎日顔を合わせているので、なんとなく部下のコンディションが悪くなってきたら、気づくことができたり、仕事の進捗をサクッと聞きにいくこともできました。
しかし、リモート環境では、上記のことができなくなり、部下の状態、行動が見えづらくなってしまったのです。
そこで、定期的に部下と話す場を意識的に設ける必要性を感じる上司が多くなり、1on1のトレンドになっているのではと思います。
【内発的動機づけによるパフォーマンス向上】
最近の心理学や組織論の研究で、「人は意味づけをするいきもの」であり、どのように行動するか、どのように意味づけされるかが重要、という考え方が広まっています。
このいわゆる内発的動機づけの効果は、エドワード・L-デシ氏の『人を伸ばす力』によって、世の中に広く浸透をしました。
この内発的動機付け理論の浸透により、やるべきことを伝えるだけでなく、なぜやるのか、そのやるべきことがどのような将来につながっているのか?を語ることが良い行動を促し、パフォーマンスを高めるのだ、という認識がマネージャーとして基本知識となってきているのだと思います。
1on1を機能させるために必要な3つのこと
では、次に1on1を機能させる上で必要なことについてお伝えしていきます。
1on1を目的に沿って機能させるには、「ベースとなる信頼関係の構築」「学びの深化」そして、「次の行動の決定」の3つのステップを踏む必要があります。
そしてそれぞれにおいて上司がすべきアプローチについてお伝えします。
<ベースとなる信頼関係の構築>
まず1on1を有意義な場とするには、部下が上司に安心して本音を話せる状態、いわゆる心理的安全性を担保する必要があります。
部下の心理的安全性を担保するために必要なのが、「アクティブリスニング」いわゆる、「傾聴」と「レコグニション」いわゆる「承認」です。
「アクティブリスニング」では、部下の話を聞きながら頷きしたり、相槌を打ったりしながら、部下の話をしっかり受け入れ姿勢を示すことが重要です。
そして、「レコグニション」では、上司が部下に対して自分の考えを押し付けるのではなく、部下の存在や考えを承認してあげるということが重要です。
頭ごなしに部下の考えを否定してしまうと部下は心を閉ざしてしまうでしょう。
<学びの深化>
1on1で部下の学びを促すには、3つのアプローチを部下の状況によって使い分けることが重要です。
まず1つ目が「コーチング」です。コーチングの目的は、引き出すことにあります。
部下のありたい姿は?経験からどんな学びがあったか?など部下の中にある答えを引き出すことが重要です。
そしてコーチングをする上で重要なのが、質問をするスキルです。オープンクエッションとクローズドクエッションをうまく活用しながら、部下のインサイトに迫る質問を積み重ねていくことがコーチングの肝となります。
そして2つ目が「ティーチング」です。ティーチングの目的は教えることです。
部下が業務の進め方がわからず不安に感じている場合や、業務を遂行するためのスキルに不安がある場合は、コーチングのアプローチでは、1on1は機能しません。このような場合は上司が教えることで、部下のやるべきことを明確化してあげることが重要です。
そして、最後が「フィードバック」です。フィードバックの目的は、伝えることです。フィードバックにおいて重要なことは2点。
1つは、上司が部下に求める仕事の水準と部下の成果とのギャップがある場合、そのギャップを示し、部下と目線合わせを行うことで成長を促すこと。
そして、もう1つが客観的にどう見えているか?を伝え、自己効力感を担保したり、修正すべきこと点を伝え、部下に改善を促すことです。
このフィードバックは疎かにされがちです。なぜなら、部下にとっては耳が痛い話をしなければならないこともあるからです。
しかし、耳が痛いからと言って上司がフィードバックを先延ばしにしていると部下はコンフォートゾーンのみの仕事になり、成長はなくなってしまいます。
ですので、定期的に、上司と部下との目線合わせをフィードバックを通して行うことはとても重要です。
<次の行動の決定>
いくら1on1で内省を深めても、次のアクションに永遠と転用されなければ意味がありません。
なので、1on1で言語化したことを仕事で次具体的にどう活かすか?を部下に宣言させることが重要になります。
有限実行というコトバがありますが、人間は宣言をすることで、いい意味で行動しなければならない、といったプレッシャーをうけることになります。
ですので、1on1の最後で、目指すゴールとゴールに対してのアクションをしっかり握るようにしましょう。
1on1で強い組織を作っている企業
では、最後に1on1を組織として定着させ、強い組織を構築することができている企業をご紹介していきたいと思います。
<グーグル>
まずは、世界的大企業であるGoogleです。
Googleは組織開発において、間違いなく世界で最も革新的な企業の1つでしょう。
Googleが本社を構えるシリコンバレーは、実は1on1の発祥地である、と『シリコンバレー式 最強の育て方』の中では紹介されていたりします。
そんなGoogleも1on1を文化として浸透させています。ある記事によるとGoogleでは、以下の仕組みで1on1が浸透しているみたいです。
・週に1度の1on1ミーティング→30分(日常業務や自分の状況を扱う)
・必要に応じて、適宜1on1ミーティングがスタート→任意
・半年に1度の1on1ミーティング→60分(キャリアを扱う)出どころ:
日々の業務についてを頻度高く行う中で、半年に一回はキャリアの話をするというサイクルをうまく回していることがわかります。
Googleが1on1を大切にしていることを考えると、クリエイティヴには1on1が欠かせない、ということの説得力はとても高まると思います。
<ヤフー>
日本に1on1という概念を広く広めた企業がヤフーと言っても過言ではないかもしれません。
本記事にて、参考にさせていただいているZホールディングス取締役の本間浩輔氏の『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』は多くのリーダに読まれています。
記事等でもヤフーの組織開発の取り組みは多く取り上げされており、組織開発の先進企業の一つと言えるでしょう。
<リクルート>
最後にご紹介するのは、私が所属しているリクルートです。
リクルートは「人材輩出企業」と言われる企業であり、「自律」した優秀な人材が多いことでも有名かと思います。
そんなリクルートでも1on1は自然と定着しています。
リクルートでは、1on1のことをよもやまと表現したり、レボと表現したりしています。
終わりに
本記事では、主に、人材開発や組織開発を仕事にされている人事の方やリーダーとして部下を持たれている方向けに1on1というマネジメント手法についてご紹介してきました。
しかし、個人的にはリーダーだけでなく、部下、いわゆるフォロワーシップにおいても1on1をしっかり理解しておくことはとても重要だと感じています。
なぜなら、部下の育成責任は上司にあるかもしれませんが、自分の人生の責任を取るには自分だからです。
1on1というものが上司との関わりをいかに生産的なものにするのか?を理解した上で、もし上司が1on1を設定しないのであれば、部下から働きかける、ということも重要になってくると思います。・
<参考文献>
本間浩輔『ヤフーの1on1部下を成長させるコミュニケーションの技法』